はじめて御岳山を訪れたのは小学生の頃。
大きく深呼吸をした母が、
空気がおいしいね、と言った。
私も深呼吸してみたけど、
空気の味はよくわからなかった。
ケーブルカーの駅から、
長い坂道と階段がつづく。
はしゃいで飛ばしていた私のシャツが
どんどんと汗で滲んでゆく。
やっとの思いで階段を登りきると、
大きな神社があった。
見よう見まねで神様にご挨拶をした。
目を開けて隣を見たら、
父と母はまだ目を閉じて頭を下げていた。
父にせがんでおみくじをひいた。小吉だった。
小吉くらいがいいんだよ、
という父の言葉の意味はよくわからなかった。
遠くに東京の街が見えた。
つめたい風が汗ばんだシャツに心地よかった。
あれから数十年、
大人になった私はまた御岳山に登っている。
思いっきり深呼吸をした。
空気がおいしい、そう思った。